第69回 東海教育社会学研究会の報告

    報 告:今津 孝次郎 氏
    テーマ:「ライフサイクルの社会的構成―青年期から成人前期への移行を中心に―」
    日 時:2007年12月1日(土)
    会 場:椙山女学園大学 星が丘キャンパス 大学会館中会議室

     研究会では、社会的時間論を継続的に研究されてきた今津氏から、ライフサイクルの社会的構成に関して、青年期から成人前期に焦点を当てた報告が行われた。

     報告ではまず、これまでの教育社会学において時間そのものが研究対象とはされてこなかったことを踏まえた課題意識が述べられ、氏が論文等で発表してこら れた「人生時間割」と「ライフサイクル研究」について整理された。「人生時間割」については、デュルケムやヤングの先駆的な議論を引きつつ、習慣や儀礼と いった区切りを通じて捉える時間の社会学の概念が提示され、続く社会的年齢の意味を分類する試みからは、機能的年齢に着目する重要性が示された。「ライフ サイクル研究」の整理では、ライフサイクル論が多くの構成要素と研究課題を抱えているにも関わらず、ライフステージの区切りを所与の前提として、各ライフ ステージの様態ばかりに関心が集中してきたと分析された。またライスサイクル研究とライフコース研究の諸特徴を比較しながら、近年の流行に乗ったライフ コース研究の隆盛に疑問を呈すると同時に、時間の社会学を考察する上ではライフサイクル研究の視点が重要であると認識された。さらに人生段階移行と社会的 装置の関係については、移行の外的変化過程に着目すると、社会的時間・人生段階移行が慣習あるいは制度などの社会的装置の中で実現していくという。
     以上を踏まえて、本報告の主要な課題である青年期から成人前期への移行に関する検討がなされた。

     人生段階移行としての青年期については、その議論を1970年代から1980年代に展開された「第一次青年期ブーム」と、1990年代から2000年代 に展開された「第二次青年期ブーム」とに分類し、各ブームの主な論点や青年期把握の特徴、社会的背景や研究領域の比較がなされた。なかでも氏は、第一次青 年期ブームでは青年期が独自・革新的な性格を有していたのに対して、第二次青年期ブームでは青年期が過渡的なものとして捉えられ、専ら労働市場への移行に 関心が集中していると指摘された。加えて、現在の青年論ブームには青年期の行動様式に関する視点が欠けているとして、就職活動の例を示しながら、現在の学 生が順応的であり、過剰同調ともみられる状況にあることが説明された。さらに青年期の特性にも言及され、とりわけ18歳国民投票制が法的成人の開始時期を 早めることによって、人生時間的には青年期が延びて成人期への到達が遅くなるという乖離現象と、それへの氏の解釈が示された。また青年の「ひきこもり」を 移行の停滞である捉えた上で、学歴の長期化、成人性基準の曖昧化、時間環境の変化に対応しうる新しい「社会的装置」の不在が、移行停滞の背景として指摘さ れた。

     最後に成人前期への移行については、まず稲作農耕から生まれた「一人前」の基準が個人的成長基準と共同体参入基準であり、この両者が同時に満たされるこ とが必要であると述べられた。ところが現代の成人性の諸条件は、これらが同時に実現することなく、ズレが生じていることで、「一人前」の基準が曖昧になっ ているという。以上を踏まえると、青年期から成人前期への移行が、伝統的社会では習慣的社会装置によって成人性の諸条件が同時に実現する断絶的時間秩序の 仕組みに置かれていたが、現代社会では制度化的社会装置の下で成人性の諸条件が順次満たされていく継続的時間秩序へと変化していると理解できるとされた。

     報告の結論として氏は、若者個人に起こる病理現象を社会の在り方の問題として捉え、現代に見合った人生移行を実現するための社会的装置を構築することが必要であると強調された。

     質疑応答では、青年期移行に対しては青年文化論やジェンダーの視点が不可欠であることや、ライフサイクル研究とライフコース研究が相互補完的であるこ と、さらにはアンチエイジングやアクティブエイジングといった現代的動きをどう捉えるかなど、多様な論点から活発な議論が展開された。今回の今津氏の報告 からは、「一人前」とみなされる習慣的な社会的装置が弱体化している現代において、とりわけ学校卒業後の制度的なサポートシステムをいかに構築するかとい う喫緊の問題が、時間の社会学という視点からの考察を通じて提起された点で、非常に有意義な研究会であった。

(東海教育社会学研究会事務局・長谷川哲也)

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