第71回東海教育社会学研究会の報告

報告:渡邉雅子氏(名古屋大学)
テーマ:日・仏・英の思考表現スタイルと学校文化―文化システムとしての教育
日時:2008年11月29日(土) 15時~18時00分
場所:名古屋大学教育学部会議室

 研究会では渡邉氏より、知識社会学の観点から思考表現スタイルと学校文化について、日本・アメリカ・フランスの比較教育研究の報告がなされた。まず氏は,文化を「ある社会または集団のメンバーが共有している象徴とその意味の体系」であり,思考の枠組み/意味を与えるものと定義し,文化をシステムとする見方を示された。その上で,日本,アメリカ,フランスにおける学校調査をもとに,思考表現スタイルと学校文化の各国間の相違を検討された。
 はじめに、小学生を対象として行われた4コマ漫画をつかって作文する実験結果から日米の違いを説明された。氏によれば、日本の子どもたちは時系列に話をつくっていくのに対し、アメリカの子どもたちは物事が起こった原因と結果を明確にして話をつくっていくという。日本の作文構造を「時系列型」、アメリカの作文構造を「時系列型と因果律型を目的に応じて選択」と名づけ、この日米の違いを情報選択とその整理の方法の相違として、氏は説明された。つまり、日本の子どもたちは「どのように」という問いから、アメリカの子どもたちは「なぜ」という問いから理解を進めるという。日米における子どもたちの理解の枠組みは、歴史の教授法の違いが影響するとして、さらに話が進んだ。日本の歴史の理解において、他者との共感が重視されるのに対して、アメリカにおいては、「なぜ」を分析する力を重要視されると氏は述べられた。
 渡邉氏は、こうした教育が行われる背景として、それぞれの国における歴史的な経緯を見る必要があると言われた。日本の場合は、「型はめ」教育から反省会などに象徴される共感教育への転換があり、またアメリカの場合では、ブルームの教育目標の分類における「評価」から「統合」への転換から、異質なものから新たなものを創造する力を重視するようになったと氏より説明があった。
 以上の具体例を示されたのち氏は、子どもたちの思考表現スタイルをつくる学校の枠組みを、デュルケム、ウェーバー、ルーマン、パーソンズ、ブルデューなどの社会学理論から考察し、文化システムとして教育を捉えることの利点と重要性を指摘された。そして、PISAに代表される国際的な学力テストや学力の議論においては、文化システムが異なることを考慮して議論するべきだと主張された。
 さらに、日本とアメリカの中間的な傾向を示した「俯瞰型」のフランスをもう一つの例として挙げられた。俯瞰型のフランスの教育はクロノロジーの重視、異質な時間の統合、両義性や多様性の強調といった特徴があることから、日米比較だけでは明らかにならない側面に光を当てることができるとして、フランス研究の意義を述べられた。
 質疑応答では、実験の手法から今後の研究の展開まで、幅の広い議論がなされた。実験の手法については、実験対象が小学校5~6年生という年齢が結果に与える影響について質問や、実験に使用した漫画の作成過程について質問が出された。また、フランス社会の特徴と文化システムとしての教育との関連について、とくに資格社会の教育への影響を中心に議論がなされた。さらに、イランをフィールドとして加えることを考えているという話が渡邉氏よりあり、今回報告された研究がさらなる発展を見せる可能性が感じられた。今回の渡邉氏の報告は、子どもたちの思考表現スタイルの違いに、教育を文化システムとして捉えるマクロな視点から切り込むものであり、比較教育研究からシステム論にまで広がりを見せる大変意義深いものであった。

(東海教育社会学研究会事務局:中島葉子)



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