第72回東海教育社会学研究会の報告(8月1日)

報告:浦田 広朗 氏(名城大学)
テーマ:全国大学生調査からみた大学生の学習行動
日時:2009年8月1日(土)15:00~17:30
会場:椙山女学園大学 星ヶ丘キャンパス 大学会館3階 中会議室

 今回の研究会では、大学生の学習行動を研究されてきた浦田広朗氏より、大学生の学習時間や生活状況に関する実態調査の分析結果が報告された。

 報告ではまず、氏が分析に用いた「全国大学生調査」についての説明がなされた。「全国大学生調査」は、2007年に東京大学大学経営・政策研究センターが実施した在学生調査であり、127大学の288学部から48,223人をサンプル数とする大規模な調査である。またこの調査の目的については次の二点が示された。第一に、国としての大学政策立案や、個々の大学としての大学経営戦略に対する、基礎的なデータを得ることで、学生の実態を踏まえた大学改革を実現することである。第二に、個々の大学・学部の教育や学生の現状を把握することで、自己点検やIR(Institutional Research)の一環とすることである。

 次に氏は、苅谷剛彦氏の議論を援用しながら、学習時間がもつ指標としての役割についての説明がなされた。氏は大学生の学習時間が、大学の教育活動への関与と自主的努力の指標、就職の困難さや資格取得の圧力の指標、学習習慣形成の指標であると述べられた。その上で、「全国大学生調査」を分析するにあたり、「大学生の学習時間はどのような要因によって左右されているのか」、「大学教育の工夫により学習習慣を形成することは可能なのか」という問いが提示された。

 以上を踏まえた分析ではまず、学習時間の分野間比較について報告された。学習時間を専攻分野別にみると、最も学習時間が長いのは保健系、次いで理工農系であり、最も学習時間が短いのは人文社会系であった。学年進行による学習時間の変化についても、保健系や理工農系では3年生から4年生にかけて学習時間が増加するのに対し、人文社会系では減少していた。保健系や理工農系の学生が、相対的に学習時間が長い要因としては、全く学習をしていない者(学習時間が0時間の者)が少ないことや、高校時代に学習習慣がなかった者も大学入学後は学習をしていることなどが示された。

 次に、学習時間に違いをもたらす要因については、学習に対する目的意識が明確であることや、大学入学前に学習習慣が形成されていることなど、学生自身が持つ要因の影響が明らかにされた。また学習時間を長くするためには、レポート等の提出物にコメントをつけて返却することや、グループワークをすることなど、双方向型・学生参加型の授業が効果的であることも同時に説明された。その一方で、授業の工夫を高めることにより、学生の依存度が増してしまうことや、単に授業に出席するだけでなく、自立した学習をすることが重要であることも、併せて指摘された。こうしたことから氏は、卒業後も学びの習慣を維持するためには、自立型学習ができる学生をどう育成するかが課題であると述べられた。

 さらに、卒論や卒研の意味に関する検討もなされた。まず、卒論・卒研の従事時間は理系が長いこと、4年後期では理工農の半数以上が研究中心の生活を送っていることが示された。この結果を反映して、理系の学生はクラス・研究室の友人とよく話すのに対して、人文社会の学生はその他の友人とよく話すことが明らかにされた。このことは、理系の学生の人間関係は学内に基盤があり、人文社会の学生の人間関係は学外に基盤があるという傾向を示唆している。また、文理の共通点としては、卒論・卒研従事時間が長いと、指導のために先生と密な接触をすることになり、先生との関係で悩む傾向があるとも指摘された。

 最後に、学生の経済生活に関する分析が紹介された。まず、学生が感じる経済的困難度と学期中の生活時間との関係を検討した結果、経済的困難を感じるものほどアルバイトの時間は長くなるが、それが学習時間を阻害しているわけではないことが明らかにされた。また、一か月の生活費については、私立大学や理工農の学生ほど生活費が少ないことが示され、授業料については、設置者や分野に関わらず両親からの支払いが大半であることから、家庭の負担が重いことがあらためて確認された。

 報告の結論として氏は、こうした大規模調査によって学生生活の実態を明らかにすることの重要性を強調された。さらに実態に即した政策を実施することで、学生の学習の質を保証することが必要であるとも述べられた。

 質疑応答では、大衆化した大学教育の多様性を、調査や分析でどのように反映させるかが一つの論点となった。例えば、学部や分野によって授業や学習の形態が違うことから、学部や分野ごとの詳細な分析が求められた。また近年では、大学の入試形態が多様となり、入学する学生の質も一様ではないことから、調査や分析の際には入試形態も考慮すべきとの意見も出された。さらにその他の論点としては、評価自体の可能性についても議論された。この点については特に、アメリカ型の評価手法が導入される中で、学びあいやグループワークといった日本的な授業に対する評価が、はたして可能なのかという課題が提示された。

 今回の研究会は、高等教育学を専門とする研究者や、大学関係者も多数出席され、それぞれの大学の事情が語られるなど、有意義な議論がなされた。
(東海教育社会学研究会事務局:長谷川哲也)


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