第73回東海教育社会学研究会の記録

報 告:山田肖子 氏(名古屋大学大学院国際開発研究科准教授)
テーマ:「ガーナの中等教育における社会格差の再生産と日本との比較」
日 時:2009年12月12日15:00~18:00
場 所:名古屋大学教育学部会議室

研究会では、国際開発援助分野での実務及び研究経験が豊富な山田氏から、ガーナの中等教育における社会格差の再生産現状を明らかにする、という趣旨での報告が行われた。

 まず、氏はガーナを中心にアフリカの中等教育の歴史的経緯及び特徴を紹介された。そして1990年代から、アフリカ途上国の初等教育・前期中等教育が国際援助の対象となり、就学者数が急増している一方で、後期中等教育の基盤整備が見落とされがちであり、エリート教育と大衆教育の間に乖離が依然として存在していることを指摘された。こうした実態をふまえ、氏は2007年にガーナの高校を対象に調査研究を行い、後期中等教育への支出がどれだけ家計に依存しているかを明らかにしようとされた。ガーナでは寮をもたず通学を前提とするタイプの高校の財政負担が軽く、効率が良いという前提に基づき、コミュニティ・スクールが1987年以来140校建設されている。しかし、コミュニティ・スクールは本当に政府にとって安価であり、また他の高校タイプに比べて家計負担が少ないのか、といった疑問について、氏は実証的な調査をおこなわれたのである。

 山田氏は、ガーナのガーナセントラル州の3つの郡におけるエリート高校(以下「カテゴリーA校」と称する)2校、一般高校(以下「カテゴリーB校」と称する)2校、コミュニティ・スクール2校を選択し、それらの高校3年生の生徒および保護者を対象に質問票調査、インタビュー、フォーカスグループディスカッションを行われた。調査からは、まず、学校間に生徒の社会経済的背景の大きな格差がみられることが明らかになった。具体的には、基準就学年齢(18-19歳)の生徒の割合、私立中学出身者の割合、保護者の教育レベル、保護者の経済状態(家財道具の数)、通学圏内に家がない生徒の割合などの指標を用いて、もっとも大学進学に有利な「カテゴリーA校」の生徒が一番社会経済的に恵まれていること、他方では大学進学率の一番低いコミュニティ・スクールの生徒の家庭経済状況がもっとも劣悪であることが明らかにされた。

 続いて氏は、学校カテゴリー別に公的補助金と授業料を比較し、目に見える家計支出がすでに公共支出の教育費を超えていることを示された。さらに、教科書、副読本、補習などの教育関係支出、および住居費、食費、交通費、水道・電気・光熱費などの生活費を合わせた隠れた家計支出が非常に多額であり、調査対象者の多くはその費用を払うことに困難を感じている現状を明らかにされた。学校カテゴリー別に家計支出を比べると、「安い」イメージのコミュニティ・スクールは、実は教育環境が悪いにもかかわらず他のタイプの学校と同様に高い比率で家計負担に依存している。聞き取り調査から、コミュニティ・スクールの学生は、入学した後に「授業料が実はすごく高いと気づいた」といった感想を持っており、多額の教育費をまかなうのに非常に苦労していることが明らかにされた。

 こうした分析の後、コミュニティ・スクールは家計にとっては安上がりではないこと、親の経済力による教育機会の格差が再生産されていること、農村部と都会部の学校間の教育の質の格差が大きいことという、ガーナの後期中等教育における問題を3点指摘された。最後に氏は日本と比較して、「子供の貧困」と学歴による分断、格差再生産の構造における類似性がみられることを指摘され、公平性確保のための政策、貧困層支援のソーシャル・セーフティ・ネットの重要性を喚起された。

 発表に続いての質疑応答では、アフリカを対象にした研究をめぐる文化人類学的アプローチと国際開発的アプローチの異同、ガーナの中等教育政策の社会的意図とインパクト、発展途上国の教員育成の問題、日本の教育問題との比較、といった論点について活発な議論が行われた。今回の山田氏の報告は、ガーナの中等教育について、従来の開発アプローチに対して若干批判的な立場から、高校現場における社会格差の再生産に関する実態を詳細に提示され、なおかつアフリカ研究への関心を喚起した点で、大変有意義な研究会であった。


(東海教育社会学研究会事務局:沈晶晶)



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