第77回東海教育社会学研究会の報告

報告者: 安達 智史 氏(日本学術振興会特別研究員)
報告題目: 外国にルーツをもつ子どもと教育―学校・家族・地域の意義とその限界
日時: 2011年12月3日(土) 15:00-17:30
場所: 名古屋大学教育学部 F演習室

 

 今回の研究会では,1990年代以降増加し続けるニューカマーの不就学,低達成,文化葛藤,非行などといった定住化にともなう教育・育児の問題を背景として,外国にルーツをもつ子どもの教育における,家庭,学校,地域の現状とその課題について報告された。
 まず氏は,日本語指導が必要な外国人生徒数や,かれらの母語別在籍状況,都道府県別母語別児童生徒数などのニューカマー児童生徒の推移や現状といったマクロな動向を概観した。続いて,ニューカマー児童生徒に関する先行研究について言及された。まず,これまでの先行研究を,1.教育学的研究,2.学校文化,3.教室のエスノグラフィー,4.家族/エスニック資源,5.階層・家族構造問題,そして6.地域組織による支援,に分類した上で,本発表の基礎となる家族/エスニック資源(志水・清水編,2001,『ニューカマーと教育-学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』明石書店)の分析枠組みを説明された。そこでの分析枠組みとは,様々な特徴を有する家族関係(地位家族や葛藤家族など)と子どもの学校適応(向学校的/反学校的など)が,家族の資源システム(教育的資源,編成的資源など)を媒介としながら相互に関連付けられるというものである。本発表で採用する分析枠組みは,上述の分析枠組みを援用したものであり,家族の資源システムを教育的資源,成員的資源,編成的資源とした上で,問題を抱えるニューカマー家族は,主に編成的資源に結実する成員的資源が機能不全に陥っており,現実的には利用可能な資源が乏しい状況にあることを前提としている。そこで,不十分な編成的資源(教育支援や人的ネットワークなど)を補助する資源として「地域の資源」を利用することで子供の学校適応を志向するというモデルである。
 次に氏は,調査の概要と調査対象を紹介された。調査地は愛知県X市で,手法は参与観察とインタビュー調査,対象者は児童/生徒,保護者,教師,日本語支援担当員である。本発表で報告された事例は中学校に通うブラジル系生徒4人(ヒロミ,メリッサ,ルイザ,グスタボ)である。調査の結果から,教育的資源の不足だけでなく,成員的資源の重要さが示唆された。特に言語,ロールモデル,愛着といった資源が不足していることが指摘された。加えて,リーマン・ショックの影響による経済的資源の弱体化も成員的資源/編成的資源を弱める傾向があることも示された。
 以上のような困難を抱えている外国にルーツをもつ子どもたちの教育に対して,家族に期待すること自体が困難であることが強調された。
 次に氏はB中学校の実践である「日本語適応教室」の事例を担当教員によるインタビューからその特徴と問題点を検討した。そこでは,教科よりも居場所作りを重視する「ヒーリング・ルーム」としての特徴が挙げられた。しかしながら,担当教員が学校へ来させることを重要視する「カウンセラー」としての役割と,日本語能力をつけさせ通常教室へ戻すことを目的とする「教師」という役割の間でジレンマを抱えしまう状況があることを課題として指摘した。このような課題がある中で学校内の取り組みだけでなく,地域のリソースを利用せざるをえない状況があるという。
 そこで,氏はかれらの感情的愛着(安心や信頼)を生み出し,より長期的な目的と資源を供給することを助ける,地域のリソースとしての第三の場(地域資源)に着目し,学習支援教室Eの活動を取り上げてその展望を検討した。
 学習支援教室Eには,ブラジル,ペルー,フィリピンにルーツをもつ子どもたちが多く通っている。ボランティア職員は主に宿題を手伝うことにより,子どもたちのアカデミック・アイデンティティを養い,学校に居場所を作ることを目的として活動している。氏も学習支援教室Eの活動に参加しており,ここでの活動を通して,「できる外国人」とみなされる子どもも,実勢には曖昧な理解の中で勉強を行っていることや,教師が多くなることによる「学校化」圧力が高まることなどが活動を通しての課題として提起された。
 以上のような実践から得られた知見から,最も重要なこととして親の子どもへの関与,必要なサービスの積極的な利用,コミュニティ組織による学校や親へのアピール,そして語学指導員等の地位の保証といった課題が指摘された。
 氏の話題提供を受けての質疑応答では,「外国にルーツを持つ」という意味や本発表での分析枠組みの妥当性,提起された学習支援教室Eの課題が互いに因果関係の構造になっている可能性が議論された。また,他の外国人集住地域と比較した上でのX市の取り組みの現状や課題なども検討されるなど,教育社会学の主要なテーマの一つである「ニューカマー」をめぐって有意義な議論が展開された。
 

(東海教育社会学研究会事務局: 宝来 敬章)


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