第79回 東海教育社会学研究会の報告

報告者:今津 孝次郎 氏
報告題目:学校臨床社会学と私
日時:2012年12月1日(土) 15:00~17:30
場所:名古屋大学教育学部

 今回の研究会において今津氏は,自身の「学校訪問」という調査スタイルから独自に体系づけてきた,「学校臨床社会学」の理論と方法について報告された。はじめに氏は,研究を進めるには5つのステップがあると述べ,なかでも研究者自身がリアリティ感を覚える対象と方法が重要であると指摘する。
 次に氏は,「学校臨床社会学」の理論枠組みについて報告した。氏は「学校臨床社会学」のルーツはシカゴ学派であると述べる。シカゴ学派は,都市化が進むシカゴの動態を記述しようとする客観的実証主義と,貧困・犯罪などの社会問題の解決を目指そうとする実践性の混在が特徴であると述べる。これら2つの志向性を持つシカゴ学派の研究は,しばしばその混在性が批判の的とされてきた。だが氏は,客観的実証主義と実践性を併せ持つシカゴ学派の特徴こそ「学校臨床社会学」のルーツであり,重要なエッセンスであると述べる。加えて氏は,シカゴ学派第一世代と同時期に活躍したデューイの功績について述べた。氏によれば,デューイはアクチュアルな「社会問題」が存在するシカゴにおいて「いかに公立学校の普通教育を構築すべきか」という課題意識を備えていたと述べる。そして,①変動する社会の中で学校を捉え,②特定の学校を基盤とし,③古いタイプの学校教育を改革しようとするデューイの姿勢を,「介入参画」的であるとし,「学校臨床社会学」の源流であると述べた。
 さらに「学校臨床社会学」を展開していくための方法論として,氏はラザースフェルドたちの「応用臨床社会学」の方法について報告した。氏によれば,応用臨床社会学は,理論構築を目指す社会学が実用的な応用にも触手を伸ばそうとする研究である。氏は応用臨床社会学で見出された応用過程論を踏まえ,研究対象と研究者との距離や,対象とする問題の質や臨床のレベルを整理し,「介入参画法」を提示した。
 最後に氏は,「高校生がつくるケータイハンドブック」という教育実践活動について紹介した。本事例は,対象とするフィールドとしての学校が抱えている問題に対し,研究者は全面的かつ協同的に参画し,「当事者に即した個別問題の解明と処方」を目指す「介入参画法」の実践事例である。本事例は,氏が名古屋市内の私立高校から依頼を受けて行ったもので,ケータイの利用や自己管理をめぐって生徒有志が制作したハンドブックを中心に,保護者や教師をも巻き込んで学校全体で議論を行うという内容であった。
 質疑・応答ではまず語句に関する議論がなされた。フロアからは,氏が提唱する「介入参画法」は「アクションリサーチ」とどう異なっているのかということと,「学校組織」研究の対象は教員のみかどうか,ということについての質問が出た。これに対し,氏は「アクションリサーチ」とはそもそも実験社会心理学者が提唱した技法で,仮説・検証型の手法であり、他方「介入参画法」は研究者が準備する課題というよりもむしろ,フィールド対象とされる人々が抱える課題に接近するという,文化人類学に近い方法である。また,「学校組織」研究の分析対象には,生徒のみならず保護者や地域住民も含めるが,最終的な意思決定のプロセスは教員集団によってなされることに留意する必要があると述べた。
 次に,内容に関する議論がなされた。まず,「学校臨床社会学」において何を「問題」とするかという点が議論になった。例えばケータイをめぐる「問題」は,「コミュニケーションに関する問題」としてとらえる研究者がいる一方で,「学力低下に関する問題」だととらえる現場の教師がいる。こうして食い違った場合,いかに合意していくのか,という問いである。このことに関して氏は,「問題」とその解決方法については,学校と研究者が対話することで形成していくものだと応じた。また,現場の教師からは「慌ただしい学校内では何が問題かに気づくことさえ難しい」という率直な感想が出された。
 さらに,「学校臨床社会学」として研究者が介入参画して得られた成果をいかに評価するのかという点も議論になった。「ケータイハンドブック」の事例でいえば,生徒をエンパワメントすることで,学校の指導体制が教師中心から生徒中心へ変容することを評価するのか,ケータイハンドブックの刊行そのものを評価するのか,などである。これに対し,教員,保護者それぞれの評価指標が異なっている中での当事者の評価の尊重や,成果として研究者がアカデミックな観点でいかに評価していくのかが議論となった。これらの議論に対し氏は,研究者が下す判断と学校が下す判断が異なることは両者の多様性として受け止め,研究者としては,これまでのアカデミックな枠組み(例えば,M・ミードが論じた,文化を習得する際の世代間関係の類型)において,本事例がいかに位置づけられるのか,というインプリケーションを追究するべきであると述べた。
 最後に,フロアからは今後「学校臨床社会学」を実践する上での氏の構想について質問が出た。これに対し氏は,とにかく「学校訪問」を続け,現場に赴くことで現実に触れることが大事であると述べた。そうする中で,「学校臨床社会学」のミッションである社会学の知と現場の知を融合させながら,現実的な社会問題の解明と解決を一歩でも進めることが可能になると締めくくった。
 なお,氏の主張の詳細は,『学校臨床社会学―教育問題の解明と解決のために』(新曜社,2012年)にて知ることができる。ぜひ,参照していただきたい。

(文責: 都島梨紗)


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