第82回 東海教育社会学研究会の報告

報告者:米澤彰純 先生(名古屋大学)
報告題目:大学と国際化と社会学
日時:2014年7月26日(土)15:00~17:30
場所:南山大学名古屋キャンパス D棟

 研究会では、名古屋大学の米澤彰純先生から「大学と国際化と社会学」という題目にて報告がなされた。報告では、大学の国際化という概念は社会理論の中で組み立てられたものではなく、実践がなされるなかで作られた概念であることが説明された。氏は高等教育の国際化の概念として、現在幅広く受け入れられているJ・Knightによる定義を示し、これは国際化に向かっていくプロセスを国際化と定義することにより、国際化の考えを世界的に共有できる点が優れていると評価した。その上で、大学の国際化における現状について説明を行った。氏はここ3年ほどで、大学の国際化が大学の中の中心となり、エリート段階のものがマス段階にまで広まってきていることをあげ、大学の国際化は新しさを持つものから、伝統的かつ規範的なものに変化してきているということを指摘した。このような状況において、日本のような「周縁」の国にとっては厳しい現実があると氏は指摘する。日本の現状として、英語力の不足、海外勤務志向の二極化をあげ、一種の英語的な世界での競争としてみると、単純に日本が競り負けている状況が見えると氏は述べた。
 次に氏は高等教育の現状と問題を以下のように指摘した。研究上の問題として、吉田氏の考えを援用しつつ、教育社会学において、高等教育のInternationalizationに関する研究、つまりは国を超えた上での議論が不足しているのではないかと指摘した。例えば世界の留学生の状況をみると、2011年現在において1年以上留学した経験ある学生が430万人を超え、また世界的にみると高等教育人口は増え続けている。そのなかで、高等教育の国際化は、"Removal of barriers to cross-border mobility but not for all"という大学間やその他のステークホルダーの中で関係性を作り出しつつある状態だという。そのため、社会学としてそれぞれの関係性を考えることが課題となると指摘した。
 氏は上記のような高等教育の国際化における関係性の問題に対して、アジア太平洋地域を対象にした調査をもとに報告を行った。アジア太平洋地域においては、例えばイギリスの植民地支配を受けていた香港・インド、日本の影響を強く受け台湾・韓国、アメリカ・イギリスの影響を受けた日本などさまざまな背景を持ちながら、今日の高等教育が行われているという。アジア太平洋地域における国際的なパートナーシップをみると、一つは他国でのキャンパスの設置によるリソースの提供・共有、留学生を受け入れや研究者の受け入れによるヒューマンリソースの提供・共有などが行われていることがあげられた。二つは、教員や学生の交流を通した能力開発として捉えることができ、最近では、国際的な学習環境を与えることが価値を見出されており、これらを支える土台には国を超えた援助や国際協力があるという。氏は国際協力の背景にある、天然資源の確保や自国の市場拡張といった意味があること、また世界銀行などの経済面では、特定の国に対してのちに返還されることを見越して貸与と言う形で奨学金を出し、社会経済的に発展することを前提とした支援が行われていることを説明した。これは基本的に国と国の間の交渉を前提しているが、ここ15年の間に多国間のパートナーシップの動きがでてきている変化を意味するという。例として、日本やシンガポールがASEAN諸国への支援をしており、ASEANの大学の質をあげようとしている。また、ASEANとEU、中国、韓国もそれぞれで協力体制を作りつつあり、人々が国境を関係なく移動するという前提のもとでの、頭脳獲得が起きていると述べた。
 次に、留学をする学生の様相がここ10年程で変化してきていることを氏は指摘した。アジアの現状をみると、留学受け入れ国として学部では中国、日本、韓国の順に多く、大学院では日本がトップとなっているという。また、人口規模で考えると韓国は特に送り出しにおいてかなり活発な留学動向にあると見え、日本は遅れをとっている状況だと見える。また、そこにはBrain circulationという概念が存在しているという。これは、例えば韓国が多くの留学生を輩出することによって、経済成長を果たし、結果として韓国に優秀な人材が戻ってきていることを意味する。韓国とは異なる形式ながらも、シンガポールでもBrain circulationの形がとられているという。これはある種、理に適っており、実際に世界大学ランキングではシンガポールの大学は上位に位置している。日本においては、仮説ではあるが、国際的な大学は10校程度にとどまるとされ、マスレベルでの国際化は行われておらず、ドメスティックな状態だといえる。また、日本では留学する学生の多くが短期留学であり、他国の学位をとることはほとんどない。しかし、韓国では英語力があることや大学数の関係により、学位をとるための留学が盛んにおこなわれている状況が提示された。
 氏は、アジア太平洋地域における多様な高等教育の国際化の背景をふまえ、高等教育の国際化に対する社会学としてのアプローチとして、マージンソンモデルを示しつつ、マージンソンモデルではアジア太平洋地域における状況を理解できない面があるとして、アジア太平洋地域における高等教育の国際化を示すモデルの難しさを述べた。同時に、高等教育の国際化を実証研究や理論研究として整理しきれない面があることを指摘した。大きな問題として、大学の理念を日本・アジアでどう取り入れるかをあげた。一つの取り掛かりとして、日本・中国・韓国をみてもその背景が多様であるなかで、アジアのアカデミックな動向として、大学のガバナンスの問題を示した。その上で、今後の可能性を探る旨を述べ、現在、アジアの大学の共通のトレンドなどは提示できているが、その背景にある文脈などは共有にされておらず、アジアの大学としての共通のコスモスを作っている最中であるとアジア太平洋地域の高等教育の現状を提示した。
 質疑応答では、大学の国際化の議論におけるグローバリゼーションの捉え方や議論の仕方、氏の報告における社会学の捉え方、グローバリゼーションとインターナショナリゼーションの違いについて、大学教員のキャリアにおける国際化の違い、グローバル化にのれない大学の戦略についてなど、多様な論点に関わる議論が活発に行われた。今回の米澤氏の報告により、大学の国際化の議論についてグローバルな視点から分析・研究するための最先端の知見が提供され、大変有意義な研究会となった。

(文責:上地香杜)

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