第84回日本社会学会大会・テーマセッションの詳細

投稿日:2011年05月20日 カテゴリー:お知らせ、 カテゴリー:学会内委員会  投稿者:研究活動委員会

【1】実践からの社会学理論の生成と変容――学説はいかなる現実を立ち上げてきたのか
①コーディネーター:出口剛司(明治大学)
②趣旨:「学史・学説」研究は、「現場」と直接的な関係をもたない、もったとしても、間接的な漸近に留まるという通念が、現在広く共有されているように思える。しかし、「学史・学説」研究が対象として取り上げる社会学者もまた、決して「無」から独自の理論を創造したわけではない。我々が、何らかの問題意識に基づき調査を行い、その過程で既存の諸概念の有効性を検討し、より説得力の高い枠組みを提起しようと試みるのと同じく、理論には理論が生成する独自の「現場」が存在する。抽象的に見える社会学理論もまた、既存の道具立てでは解決しえない新たな実践的問題や社会的現実への対峙から、生み出されるものなのである。
 以上を前提とするならば、(1)「学史・学説」研究が対象とする社会学者が現実に直視していた実践的な問題を、合理化、個人化、産業化、近代化、グローバル化といった現在を起点とする遡及的趨勢命題に還元するのではなく、社会史的・思想史的な知見に基づき、精密な把握を行うこと、かつ(2)綜合社会学、方法論的個人主義などの、パラダイムという名のラベルに甘んじるのではなく、彼らが実際に念頭においていた「先行研究」を、すなわち、その理論的な枠組みではそもそも彼らが直面していた社会的現実を問題として把握することが不可能であると当該理論家が批判の対象とした知のあり方を、具体的に特定する作業が必要不可欠である。
 このような問題設定にもとづき、本テーマセッションでは、「理論の現代的意義」や「既存学説の有効性の検証」といった作業に安んずるのではなく、学説もまた、個々の実践的問題、先行学説に対する理論家の批判的応答なのである、との視角の下、「理論生成の現場」に赴こうとする報告を募集する。またそうした理論の応答性に注目し、生成の現場に立ち会うことは、社会学の言説空間を現実と学説、学説と学説といったさまざまな次元で成立する対話の重層として把握することでもある。本テーマセッションも、そうした見地から社会学という批判的言説が切り開く公共的空間の可能性とその条件を明らかにしていきたい。むろん、対象とする学説の種類は問わない。
③キーワード:理論と実践、理論社会学、社会学の公共性


【2】サクセスフル・エイジングの比較研究
①コーディネーター:金子勇(北海道大学)
②趣旨:1968年に造語した‘ageism’により「年齢差別」問題を提起し、ピッリッツァー賞受賞の名著Why Survive?-Being Old in America, 1976(=1991、内薗耕二監訳『老後はなぜ悲劇なのか?』メヂカルフレンド社)で、世界の「老人問題史観」に終止符を打ったバトラーが2010年に亡くなった。医師なのに、社会科学への配慮が豊かであったバトラーの功績の一つに概念の提唱がある。
 その後、世界でも日本でも類似のpositive aging、active aging、successful agingなどが概念化され、日本の実証的な高齢者研究でも活用されるようになった。これら4概念をあえて分ければ、意識面がpositive aging、行動面がactive aging、成果面がproductive aging、評価面がsuccessful agingになる。高齢者全体の85%を占める自立高齢者も15%に達する要支援・介護高齢者のどちらでも、生きがいや満足感や幸福感がもてると評価される状態がsuccessful agingである。
私もまた、これらの諸概念に学び、時には互換的に使用しつつ、1990年代から全国の都市高齢者を対象とした500人規模の訪問面接法による量的研究とインタビュー手法を重視した質的研究を並行させて、その構成要素を具体的指標として抽出してきた。
20年に近い実証的研究から、successful agingには、①家族との良好な関係、②仲間の存在、③働くこと、④外出すること、⑤得意をもつこと、⑥趣味をもつこと、⑦運動散歩などが有効であると確認されている。「人とのつながりの糸」として高齢者の「ストリングス」の複合拡大があり、それが高齢者の身体面や精神面の「ストレングス」をもたらし、ソーシャル・キャピタル論の応用で「人は良薬」も証明される。
団塊世代全員が高齢者になる2015年の高齢化率予想が約27%の今日、高齢化社会変動に社会学はいかに取り組めるか。全国のsuccessful aging事例を検討し理論化を試みて、社会学のproductivityに貢献したい。
③キーワード:successful aging、社会学のproductivity、productive aging、positive aging、active aging


【3】ライフストーリー研究の可能性
①コーディネーター:橋本みゆき(立教大学)
②趣旨:本セッションは、2010年度大会のテーマセッション「ライフストーリー研究の射程と地平」に続き、今度は主としてインタビュー・データの解釈・分析に照準を合わせ、ライフストーリー法を研究方法としてさらに鍛えることを目的としている。
 構築主義的なライフストーリー研究は、近年、有力な質的研究法の一つとして認知されるようになってきた。その特徴は、語られた内容から制度的・規範的現実を記述し分析する実証主義的アプローチとは異なり、調査者の位置づけをも意識化して分析対象とし、それぞれの主観的現実や語りのコンテクストを積極的に解釈に取り入れる立場である。とりわけ、昨年のセッションでも取り上げられた、語り手と聞き手との相互行為に注目して語りの内容理解の深化を図る手法は、多くの関心を集め、批判も実践もされてきた。
 しかしライフストーリー法を特徴づけるのは、「相互行為としてのインタビュー」という視角にとどまらない。ライフストーリー研究の分析・解釈では、語りのストーリー構成のあり方、複数のリアリティ(の共存または衝突)、語りによる状況的な自己呈示、時間的・空間的次元において広がりをもつ重層的な語りといった、語りの様式にも目が向けられる。たとえば「エピファニー」や「モデル・ストーリー」など、ライフストーリー研究の文脈から生まれたインタビュー・データの解釈・分析概念もまた、豊かな鉱脈となっている。これらは人びとの生や社会関係をより豊かに理解するための道具立てである。
 そこで本セッションでは、国内外のライフストーリー研究のこれまでの研究蓄積を踏まえ、解釈・分析の方法論的発展のためには何が必要で何が可能なのかを、さまざまな角度から検討したい。それにより、ライフストーリー法に寄せられてきた「解釈・分析の不十分さ」という批判や懸念に応えるだけの方法論的強化を図り、社会学研究の有効なツールとして広く活用されるようになることを目指したい。
③キーワード:ライフストーリー研究、インタビュー、解釈・分析、自己、社会的コンテクスト


【4】グローバライゼーション・生命・サステ(イ)ナビリティ再考:アクター‐ネットワーク理論とオープン・システム・サイエンスを越えて
①コーディネーター:小川(西秋)葉子(慶應義塾大学)
②趣旨:グローバライゼーションにおける生命の変容を論ずるためには、社会問題を複雑に相互に関連したサブシステムからなる全体システムによって引き起こされた現象として扱う視座が肝要である。本テーマセッションは、科学社会学で多用されるアクター‐ネットワーク理論(ANT)の批判からはじめ、ポスト・フーコー的視野からの応用/政策科学として注目されるオープン・システム・サイエンスを経由し、社会学の新しい研究分野としてのサステ(イ)ナビリティ研究へと接合することを企図している。
 すなわち、第一に、社会システムを人、モノ、言説、制度という異質であるが連携しているアクターのネットワークとして認識し、分析と検討を行うにはどうすればよいのか(アクター‐ネットワーク理論の視座)。
 第二に、グローバルな環境政策や都市計画、地域開発、文化と生物の多様性の保持などの諸問題を境界領域や境界条件が動的に変化するものとして想定し、解決を図るにはどうすればよいのか、すなわち、「生き物」を取り巻く問題を「生きたまま」解決するにはどうすればよいのか(オープン・システム・サイエンスの視座)。  
 最後に、単一の真理ではなく全体が成立し、維持されるための原理群の相互関係を探求するにはどうすればよいのか(サステ(イ)ナビリティ研究の視座)。
以上の論点に、環境、都市、地域、開発、文化や生物の多様性に関る社会学理論はどのように応答することができるのか。本テーマセッションは、上記の3つの視座を統合することで、グローバライゼーションと生命をめぐる社会学の新しい地平を切り拓く試みである。 
③キーワード:グローバライゼーション研究、生命、サステ(イ)ナビリティ、アクター‐ネットワーク理論、オープン・システム・サイエンス


【5】マンガ研究と現代社会――現代社会を読み解く手立てとしてのマンガの可能性――
①コーディネーター:茨木正治(東京情報大学)
②趣旨:現代社会が多様な価値・多様な様相・構造を持っていることは論を俟たない。そうした複雑性を持つ社会に生きざるを得ない我々は、どのような手立てを持って接していったらよいのであろうか。そこで、本テーマセッションでは、多様性を持つといわれるマンガというメディアおよび社会学の視点を用いて現代社会の多様性を読み解くことを考える。
 マンガは、政治・経済・社会・文化等多様な対象領域をもつだけでなく、および表現形態においても紙媒体や映像媒体、殊に電子化された諸媒体にいたるまで多種多様である。これに対応してマンガ研究もまた、遅まきながら多様な様相を示している。たとえば、日本社会学会においても、2005年度第78回大会において「マンガ研究と社会学」というテーマセッションを行った。それ以降でも、少女マンガは、様々な領域に対してマジョリティによる「自然化」された視点を超えて、マイノリティの視点や、上記二つの視点を統合した新たな視点を構築している。また、新聞マンガ研究では、地方紙の分析によって、いわゆる「地域分権」型コミュニケーションを作るメディアとして見直されつつある。マンガの内容の分析では、マンガ表現論が提示され実証化の試みがなされている。加えて、産業構造の分析からマンガ制作(送り手)の分野が、また、質的研究から、多様な読者像に迫る受け手研究などが行われている。
 しかしながら、これらの研究が相互連関を持つまでには至っていない。また、マンガに関する一般社会の認識も東京都の条例に代表されるように、マンガ害悪論といった「先祖返り」が登場している。諸研究の孤立化とマンガ認知の退行と言った現状を読み解くためには、基盤となる社会学的認識・理論および方法、もっと広く現代社会を読み解く社会学の諸研究が必要である。たとえば、前述したマンガ産業からの考察では、文化産業論が理論的背景として用いられている。また、内容分析においては、マス・メディア論、コミュニケーション論、文化研究が援用されているが、それぞれの場合とも十分ではない。むしろ、様々な社会学の視点・対象・方法からマンガがどう扱えるのか、それによって現代社会を、従来の社会学的考察とは異なってどのように描き出せるのかを提示したい。それによって、マンガ(研究)・社会学研究そのものが持つ意義についても考察の道を開くことができればと考える。
③キーワード:マンガ(研究)、社会学諸理論(アプローチ・視点)、現代社会


【6】現代日本社会における「排外主義」の問題
①コーディネーター:明戸隆浩(東京歯科大学ほか)
②趣旨:「内集団」と「外集団」の区分、あるいは「われわれ」と「彼ら」の区分という問題は、社会学にとってはなじみ深いテーマである。とりわけ、ネーションやエスニシティ、あるいは人種といった要素によってこうした自他区分を行い、それに基づいて「彼ら」を排除するという現象(広い意味での「排外主義」)は、古典的であると同時に、きわめて今日的な課題でもある。
 その一方で、ネーションやエスニシティ、人種にかかわる多様性が相対的に「見えにくい」ものとみなされがちな日本という文脈においては、こうした要素に基づいた排除が(暗黙裡にではなく)「明示的に」主張されるということは、以前は必ずしも一般的な現象ではなかったように思う。しかし近年(とりわけ2000年代以降)、日本においてもこうした自他区分に基づいて「明示的に」排除を主張する事例――外国(人)に対してなされる(多くは差別表現を伴った)インターネット上の極端に否定的な言説や、こうした言説をそのまま街頭で主張する「行動する保守」を自称する一部の団体の活動など――が目立つようになってきた。これに伴って、「排外主義」を欧米における現象とみなしがちだった学術的なアプローチも、問い直しを迫られている。
 こうしたことをふまえてこのセッションでは、外国人労働者問題についての一連の取材で知られ、また先にあげた「行動する保守」を自称する団体の典型である「在特会」について昨年詳細なルポを著したジャーナリストの安田浩一さんを、ゲストスピーカーに迎えて議論を行いたい。安田さんのルポは、現場での確かな取材に裏付けられたものであることはもちろん、「在特会」のメンバーの行動や思想について「内在的」な理解を試みている点で、社会学的にきわめて示唆に富むものとなっている。このセッションではこうした示唆を一つの手がかりとして、現代日本社会における「排外主義」の問題に、さまざまな観点から迫りたいと思う。ナショナリズム、エスニシティ、人種、移民、差別、排除、マイノリティ、社会運動といった関連領域の研究者はもちろん、格差や労働などの問題も視野に入れたより包括的なアプローチ、公共性や多元性といった概念を用いた理論的なアプローチなど、幅広い分野の研究者の応募をお待ちしています。
③キーワード:排外主義、「行動する保守」、ナショナリズム、エスニシティ、差別と排除