長野県が全国に先駆けて制度化した「家庭養護婦派遣事業（現ホームヘルプ・サービス）は、戦災の影響が残るなかで、疾病・病気などの理由から生活基盤が揺らぐ世帯の自立を目指し、その後、高齢者や障がい者の地域生活を支える在宅サービスの中核事業へと発展しました。この源流は、本大会開催地である上田市における民生委員活動などの地域福祉実践にあります。

　戦中末期、佐久市臼田（当時臼田町）に誕生した佐久病院では、戦後、劣悪な環境で暮らす農村民に対して、出張診療による保健・予防活動を積極的に行い、健康教育を推進するなど、農村医療の道を拓きました。地域に根ざして住民の健康と生活を増進する地域医療の理念は、現在の保健医療にも深く刻み込まれています。

　社会教育分野では、戦前の経験から学びつつ、戦後民主主義を具体化する「地域の茶の間」として公民館の設立が建議され、全国で進められましたが、特に信州において花開き、大小あわせて約4千館が地域に深く根を下ろし、住民の学びと地域づくりの拠点として欠かせないものとなりました。

　こうした取組は、戦後、都市への人口集中や工業化の影響が押し寄せるなかでも、住民どうしをつなぎながら地域の暮らしの基盤を守り続けてきました。今、人口は減少に転じ、地球規模の気候変動を日々の暮らしのなかで実感するようになり、SDGsへの取組も含め持続可能な社会のあり方や新たな価値を模索するなど、時代の大きな転換期を迎えようとしていますが、時代が巡っても、普遍的な人の暮らしの営みを大切にしてきた地域での取組や実践に学ぶことは多くあります。

　一方、持続可能性の議論からは、地域づくりにおける新しい可能性が見えてきており、今とこれからの人々の暮らしが豊かに営まれ続けるために資源循環の視点を踏まえた地域福祉の理論化が求められています。

　私たちが目指すこれからは、人々の共感力を高め、人と人、人と資源、人と自然が、世代、分野、空間や時間を超えてつながり、住民一人ひとりの存在が尊重され、生きがいをもって暮らせる地域を皆でつくっていく地域共生社会の実現にあります。この理念のもと、制度や政策の効果を最大限に高め、地域の状況に合わせた豊かな地域実践を展開するために、次の世代の幸せにも思いを寄せながら目の前の縦割りや利害を超え、創造的で学際的な研究を志向していく必要があります。

　今大会は、信州で展開されてきた地域福祉の源流を汲み取り、今の流れはやがて未来につながるという時間のつながりと資源の循環から地域福祉を考えることで、具体的な根拠と希望をもった「あんしん未来」を信州から全国に発信することを目指して開催します。